7月16日、52年ぶりに台湾で狂犬病感染した動物、イタチアナグマが確認された。これでアジアでの未発生地域は日本とシンガポールのみとなった。
UPDATE 2013/08/31
ウィスコンシン州・ミルウォーキー
日本国内では根絶されてはいるが、今も毎年世界で5万人もの命を奪い続ける恐怖の感染症、狂犬病。一度発症すると致死率100%、治療法は確立されていない。現在に至るまでワクチンを接種せずに発症し回復したのは歴史上たった6人という数字が絶望的な恐怖を呼んでいる。
狂犬病は、犬に限らずヒトを含めたすべての哺乳類が感染・発症するが、感染の多くは発症した犬にかまれて起こっている。まさにほ乳類の天敵ともいえる不治の病気だ。しかし不思議なのは、リッサウイルスが原因とされワクチンもあるにも関わらず、なぜこの病気の根絶が不可能なのかという点だ。
実は狂犬病ウィルスの恐ろしさは、その感染スピードの遅さにある。咬傷から侵入した狂犬病ウイルスの感染速度は日に数ミリから数十ミリと言われている。最終的に脳組織に到達すると発症するが、脳に近い傷ほど潜伏期間は短く、足先からの感染なら発症は2年以上先となる。深く静かに、しかし確実に死に向かって進行するのがこの病気なのだ。
人間が動物に噛まれて感染する理由は、動物の唾液に含まれたウイルスが傷口を通して人の体内に入ってしまうことによる。つまり動物に咬まれなくとも、人の傷口や粘膜部に、感染した動物の唾液や血液が付着するだけでも感染の危険性が高い。野生動物にうかつに触るべきではないのはこのためだ。
現在まだ狂犬病ウイルスが、ヒトからヒトへ感染した例は報告されていないが、鳥インフルエンザの例にあるように、突然変異によってヒトからヒトへと感染する能力を持つ亜種に進化する可能性は否定できない。
ここで本題に戻る。この狂犬病の症状と世界各地に残るゾンビ伝説と比較してみたい。死人が蘇り人を襲うという状況を、仮死状態から覚醒し興奮状態に陥ることに置き換えると実に相似点が多い。
善良な市民がいきなり凶暴化し人々を襲い始めることにゾンビ伝説の恐ろしさが在る。仲の良い友人や家族が自分を襲ってくる恐怖、これを撃退せねばならない絶望感に生きるも死ぬも地獄となる。
風や音、光に反応し更に興奮状態に陥ること。襲われた人々は、やがて襲った者と同じ症状を発症すること。一旦沈力尽きたかの様に見える時期の後、再度興奮状態に陥り死に至る点も両者に共通する要素だ。
ところで皆さんは最近ゾンビをテーマにした映画が増えていることに気がついているだろうか。現在日本でも大ヒット中のハリウッド映画“ワールド・ウォーZ”をはじめ、バイオハザードシリーズにウォーム・ボディーズ…。この1年の間だけでも実に世界で6本もの映画が公開されている。これは何を意味するのだろうか…。
1998年以降、ハリウッド映画で相次いで小惑星が地球に激突することをテーマにした作品が発表されていることは皆さんもご存知のことだろう。“アルマゲドン”、“ディープ・インパクト”当時ありえないSFストーリーと思っていた小惑星衝突は、今年2月ロシア上空での小惑星大爆発を経験し“いつでも起こりうる脅威”であることを世界の人々が思い知ることになった。
ハリウッド映画が、近未来に起こりうる様々なショッキングな出来事に対するショックアブソーバー(ショックを和らげるための装置)として使われているのは公然の事実だ。ではこのゾンビムービーの大量制作は何を意味するのだろうか…。
鳥類と人類という本来あり得ない異類間感染である鳥インフルエンザの人感染でも、頻発し、あれほどの猛威を振るう。ウィルスの変異能力は人間の想像を遥かに越えるのだ。ましてや同じほ乳類の病気である狂犬病ウィルスが、ヒト・ヒト感染に変異しないと、どうして安心していられるのだろうか…?
そしてもし狂犬病ウィルスがヒト・ヒト感染を行う亜種に変異したとしたら、その状況は限りなくゾンビパニックに近いものとなるだろう。
現在人類最大の脅威と見られているのが、ウィルス由来の疾病によるパンデミック(世界規模の大流行)であることは疑い様も無い。人間が社会的生物である限り感染症の流行は避けられないのだ。さて、鳥インフルエンザか狂犬病か、どちらのパンデミックがより恐ろしく発生の可能性が高いか…。私たちはそろそろその現実に向かい合う時期に来ているのかもしれない。