白菜を加工輸出したい中国とキムチを求める韓国。両国の意向が合致し急加速したキムチ貿易。この蜜月関係もついに終焉か!?
UPDATE 2012/10/15
中国・北京
蘇岩礁(そがんしょう)の領有権を互いに主張して譲らない中韓両国には、現在一触即発の緊張が走っている。そんな中、中国は韓国への報復措置として中国産キムチの通関強化(対韓国輸出の事実上ストップ)を示唆した。
韓国の代表的な漬物として知られるキムチだが、近年は中国からの安くて旨いとされるキムチの輸入が急加速。昨年度はついに中国からのキムチの輸入額は1億2090万ドル(約95億円)となり、4年前の11倍にまで急増している。一方、11年のキムチの海外への輸出額は1億460万ドル(約82億円)にとどまり、ついに輸入金額が上回る“キムチ文化の崩壊か”と国民をなげかせる屈辱的な結果となっている。
衛生面や臭いから世界最大のトラブルフードと呼ばれているキムチだが、韓国国内では年間消費量150万トン、年間一人当たり30kgという韓国人の誇るソウルフードであることは変わりない。しかし2005年韓国健康性労働省が行ったキムチの寄生虫検査で、139件の内、63件に寄生虫が発見され国内外に衝撃が走った。その後も続発した回虫卵や、ネズミ等の異物混入等への批判で、国の主導で衛生面の大改革が行われたのだった。
ところが、その途端に韓国全土のキムチファンから「風味が損なわれた」「隠し味のパンチが足りない」「これじゃメイドインジャパンと同じだ!」と、規制後キムチの味への不満が続出。昔ながらの製造法と味を求める声が高まっていた。
そんな韓国キムチファンの心をつかんだのが中国産キムチだった。その得難い衛生環境から生み出される独特の風味は、衛生面の規制が強化された韓国企業では再現不能。「なつかしいおふくろの味」として需要が高まっている。
そんな大人気の中国産キムチの中でも特に人気なのが“検査済み”という表示の無い“寄生虫卵未検査”ものだ。当然衛生面でのリスクは覚悟の上だが「回虫なんて少しくらい食べたって免疫力が付いて良いくらいだ!」と豪語する、味覚重視の胃腸の丈夫な韓国の人々の絶大な需要を呼んでいる。今や韓国の家庭にとって中国産キムチは食卓に無くてはならない存在となっている。そんな旨い中国産キムチの輸出をストップされることはまさに死活問題となる。
強気一辺倒の韓国外交だが、さすがにキムチを人質?にとられてしまった今回は、中国に対し一歩引かねばならないかもしれない。
一方中国にも、実際にはキムチ輸出規制に踏み切れない事情もある。中国国内で生産される激安の白菜は、効率良く大量生産する為に、農薬や成長剤が過度に使用され“毒菜”と呼ばれ恐れられている。低所得者の食卓には欠かせない激安白菜だが、それを食べた子供や老人が死亡したり中毒症状を起こしたりと、深刻な社会問題化している。農薬を落とす野菜専用の洗剤が開発販売される等対策も急がれていたが、既に富裕層からは「賢い中国人は中国産の野菜を食べない」と国内市場から敬遠されていたのだ。
当初は、この余剰毒菜を日本のスーパーや百円ショップの特売品用として輸出していたが、度重なる日本側の輸入検査での農薬基準値大幅オーバーで、輸出が難しくなっていた。この行き場を失った白菜を利用して始まったのがキムチづくりだった。韓国という輸出先を失うと、中国産の白菜は完全に販売先を失うことになる。中国側もこれは避けたいところだろう。
以上理由から輸出規制実施は難しいと知りつつも、外交カードとして使用する中国外交の狡猾さも見事。食卓からキムチが消えた場合に巻き起こる政府への外交批判を考えれば、韓国側もこれ以上声を荒げるわけにはいかず、この問題は文字通り棚上げの方向に向かうことだろう。ただ、両国の激しい争いを横目で見る我が国にとっては、キムチの悪い話であるには間違いない。
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