上空を飛行中の操縦席で記念撮影するスカイマーク乗務員。乗客の命をもてあそぶ娯楽は、同社のサービス精神をよく現している。
UPDATE 2012/06/07
日本・東京
苦情なんて気にしないぜ、俺たちにゃ御意見無用、夜露死苦!と世界に話題を振りまいているエアラインがスカイマークだ。滑走路を間違えて着陸しても平気なほどの航空会社は、世間の常識とのズレ方がハンパじゃない。現在同社が機中の座席ポケットに入れたサービスガイドの内容が、「優秀と聞いていた、日本のサービスも地に落ちましたね(笑)」北米系大手エアライン社員 と、世界各国の同業航空会社の失笑を呼んでいる。
先ずは、日本のエアライン全体の評価を落とした、同社の大胆なサービスコンセプト全文をごらん頂こう。
[スカイマーク・サービスコンセプト]
スカイマークでは従来の航空会社と異なるスタイルで機内のサービスをしております。「より安全に、より安く」旅客輸送をするための新しい航空会社の形態です。つきましては皆さまに以下の点をご理解頂ますようお願い申し上げます。
1.お客様の荷物はお客様の責任において収納をお願いいたします。客室乗務員は収納の援助をいたしません。
2.お客様に対しては従来の航空会社の客室乗務員のような丁寧な言葉使いを当社客室乗務員に義務付けておりません。客室乗務員の裁量に任せております。安全管理のために時には厳しい口調で注意をすることもあります。
3.客室乗務員のメイクやヘアスタイルやネイルアート等に関しては「自由」にしております。
4.客室乗務員の服装については会社支給のポロシャツまたはウインドブレーカーの着用だけを義務付けており、それ以外は「自由」にしております。
5.客室乗務員の私語等について苦情を頂くことがありますが、客室乗務員は保安要員として搭乗勤務に就いており接客は補助的なものと位置付けております。お客様に直接関わりのない苦情についてはお受けいたしかねます。
6.幼児の泣き声等に関する苦情は一切受け付けません。航空機とは密封された空間でさまざまなお客様が乗っている乗り物であることをご理解の上で搭乗いただきますようお願いします。
7.地上係員の説明と異なる内容のことをお願いすることがありますが、そのような場合には客室乗務員の指示に従っていただきます。
機内での苦情は一切受け付けません。ご理解いただけないお客様には定時運航順守のため退出いただきます。ご不満のあるお客様は「スカイマークお客様相談センター」あるいは「消費生活センター」等に連絡されますようお願いいたします。
確かに見事だ…(笑)。激安の不良タクシーでも、ここまで乗客サービスを無視する話は聞いた事が無い。「お客様は神様です」と感謝の言葉を語り続けた三波春夫が聞いたら、卒倒をおこしそうな文章だろう。
しかし、ここまでくるとスカイマークには、国内の同業他社の迷惑等かえり見ず、航空業界の倫理観の限界まで追求して欲しいと思ってしまう。
せっかくなので、次にどんなマイルールで私たちを笑わせてくれるのか予測してみようと思う。
先ずは乗務員の身だしなみだが、髪型、服装、ネイルアートも完全自由となれば、次は入れ墨解禁しかない!この際、橋下市長に「それが許される民間企業に行け!」と叱咤されている優秀な大阪市の職員を一括雇用(スカイマーク慣例に従い臨時雇用)するのはいかがだろう。あらかじめ「蘇壊魔悪」「御意見無用」等と彫っておくと採用される率が高まるかもしれない。アウトロー公務員羨望の職場となること間違い無しだ!
丁寧な言葉使い義務付け無し!これも全国の不良少年少女に広く門戸を開いたものといえるだろう。髪型も自由なので、一般社会では敬遠されやすいキンキンの金髪もモヒカンだってOK。会社支給のポロシャツさえ着れば大丈夫ということなので、レディー・ガガみたいな下着&ガーターストッキングでも問題ないハズだ。自社の飛行機をシャコタン、竹やり仕様にすれば、人気はより絶大なものとなるだろう。何より、不良少年の夢が飛行少年となることなら、主義主張に一貫性が在る。
客に向かって「オヤジ、ため口聞いてっとブチ殺すぞ!」「知らねーよ、消費者センターにでも言え!」くらいまでは許容範囲という事だろうか?このあたり、ぜひどの辺りが社の規定による境界線なのかは、ゼヒ知りたいところだ?
例えば乗客に静かにして欲しい時に、
・お静かにお願いします。
・静かにしてください。
・静かにしろ。
・静かに。
・黙れ。
・その口、縫ってやろうか。
・殺されてえのか。
・殺すぞ。
・オラぁ、今すぐ表へ出ろ(上空で)
さて、どの辺りまでOKなのか、スカイマーク関係者の方がご覧になっていたなら、ぜひお答え頂きたいものだ。
他にも乗客クレームへの対抗策で、完全に法に触れなければ全てOK!というボーダーを狙うのであれば、暴力団関係者やそのOBの採用もありだろう。昨今の暴対法強化で仕事にあぶれている上記職種の優秀なプロの方々なら、機内クレームなんてひとヒネリで解決だろう。いちいちサービスコンセプトなどという紙を印刷する手間も省ける。
同業他社のLLC(ローコストキャリア)関係者の方々何人かに、今回のスカイマークの対応やコンセプトについてお聞きすると「航空業界のハジ」「一緒にされることが不愉快」とキビシイ声が多かった。しかしハジをハジと思わないのがスカイマークの美学だとすれば、変だとは思わなくなるのだから不思議なものだ。自由を尊ぶ同社の個性だと思えば良い(笑)。
さて、ここまではまだ笑って済ませられたが、ここからは笑ってばかりいられない話しだ。
このスカイマークの自由な社風は、いつ人が死んでもおかしくない事件も多数おこしている。2010年3月12日、当時の前原誠司国土交通省相が公表した1枚の写真は、世界の航空関係者に衝撃を与えるものだった。
スカイマークの機長が、上空を飛行中に、副操縦士席に客室乗務員を座らせた上、デジタルカメラで記念撮影をしていたのだ。同社のある副操縦士に至っては、2009年4月から2010年2月にかけて、機長らと5回もこうした「記念撮影」を行っていたのだという。
この記念撮影の絶望的な危険さは世界の航空関係者なら誰でも知っている事なのだ。1994年3月22日、アエロフロート航空593便は、機長が上空1万mを自動航行中、自分の15歳の息子と娘を機長席に座らせているうち、息子が操縦桿に触れた事が原因でアンコントロールとなり墜落、乗客乗員計75人全員が死亡する悲惨な事故となっている。
航空業界の実務に就く者が、この事件を知らないハズが無い。逆に言うと、この危険さを知った上で行う記念撮影は、過失ではなく確信犯だ。モラルレベルの問題で無く、乗客の命をもてあそんだ無責任な遊びだといわざるを得ない。
さて、経営者から現場まで、一貫した無責任社風は見事では在るが、重大な事故が起こってからでは全てが遅い。監督官庁も含め早急かつ根本的な改善を期待したい。事故が起こってからでは「苦情は消費者センターへ」的な“へ理屈”は通らない。「苦情は保険会社へ」的な対応が許されると思ったら大きな間違いなのだから。
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