ハエも近寄れないほどの悪臭を放つ“地溝油”製造工房。それを人が食べていると思うとゾッとする。しかしこれは現実なのだ!
UPDATE 2012/04/19
浙江省・金華市
「健康の為に油は摂らない様にしましょう…いや、食べるな危険です!」これはダイエットの標語ではない。実際に中国で使われている悲痛な健康標語なのだ(苦笑)。
中国の食品のデンジャラスぶりは今さら言うまでもない。しかし、今回の毒食品事件は少し様子が違うかもしれない。
悪名高い農薬や抗生物質漬けの野菜で在る毒菜、腐った肉を赤く染める着色肉に段ボール肉まん…。これらは危険ではあるが一応食材をベースにして作られている。しかし今回は“地溝油”と呼ばれる最初から毒と分っている工業廃油や腐敗獣肉、下水に溜まった油等を加工して食用油として売り出すという、信じ難い人命軽視の凶悪事件なのだ!
中国公安当局は今月3日までに、浙江省金華市の農村部住民から「近所に腐ったネズミを煮込んでいるような、耐え難い悪臭を出し続けている食肉工房がある。地溝油を作っているに違いない!」との情報提供を受け、緊急捜査を敢行。その場で地溝油製造の現行犯として経営者以下30人を逮捕。以下芋づる式に100名あまりの販売業者を摘発した。
公安突入時その粗末な工房内部は、1000t以上の腐敗した廃棄用の病死した豚や牛の遺骸、犬ネコ等の皮、内臓や未消化エサ等が山積みされた地獄絵図…。それらを煮込む巨大な釜からは信じられないような刺激臭が漂い、ハエも近寄れない程の惨状だったという(泣)。
一味はこうして汚物で作った毒油を、信じ難いことに食用油として販売していた!現場で押収された3200t以外に、既に数万トンが上海、重慶両市や安徽省、江蘇省などの食用油メーカーや飲食店に販売され、消費されていたと見られている…(泣)。
しかしこの身も凍る事件は、毒油事件の、ほんの氷山の一角だという。
「実際に中国の食用油を研究している武漢工業大学の何東平教授は、『中国全土の外食産業の年間正規食用油購入量は2250万トン。しかし現実の消費量は2500万トンを越えるはずです。ということは、我々は10回の外食のうち1回は地溝油を普通に食べていることになる』と言っている程ですからね(苦笑)」中国の食品事情に詳しい中国人ジャーナリスト程健軍氏
10回に1回も猛毒の油を食べさせられている!?どうしてそれで平気なのか?中国人は胃腸が生まれつき丈夫なのだろうか…?
「いや胃腸は普通の人間と同じです(苦笑)。しかし…残念ですが、中国国内の地溝油は既に生産量年間600万トン以上と急成長中のニュービジネス。販売価格が1トン当たり約1万3000元(約17万円)とホンモノの食用油の1トン当たり約2万5000元(約33万円)と比べれば半額近いのですから人気も当然でしょう」前出程氏
当然といわれても困るが、市場規模が約1兆円もある巨大産業…。とても簡単に止められそうな事件の気がしない(苦笑)。
しかもこの地溝油の需要は、コスト削減が絶対条件の屋台や安食堂、若者向けの格安レストランに集中しているという。被害が若年層や貧困層に集中するのは確実だ。
「既に外食産業での地溝油の使用は公然の秘密です。地溝油による健康被害を恐れる富裕層は、外食時“マイ油瓶”持参で自衛に出ていますが、その油瓶の中身が厨房で地溝油にすり替えられる等、イタチごっこです(苦笑)。何より多くのレストランには、使用済み油の回収業者と販売業者が頻繁に出入りし、調理人達の儲かる副業…いや本業となっています。街の小さな食堂で働く月給3万円ほどの調理人でも、食用油を地溝油にすり替えるだけで毎月5~6万円の副収入が得られるとなると手を出さない理由がありません。旨い人気の地溝油を仕入れるのも料理人の腕だそうです…(苦笑)」前出程氏
旨い人気の地溝油…。しかし、これほど大量に出回る地溝油。ということは、そんなに簡単に作れるのか?何よりホンモノと見破る方法は無いものだろうか?
「中国では使用済みの油は平気で下水に捨てますからね。工場や食堂等の排水溝や下水溝に大量に溜まった黄色いクリーム状の油を集めて濾過し、不純物を凝固させる薬品と共に煮詰めて精製する。一夜にして腐敗したドロのような廃棄油が澄みきった食用油?に変わるわけです。ただしカビや雑菌はもちろん、各種の有毒物質が除かれたわけではありません。何より根本的に食用でない鉱物油等も使われていますからね。
当たり前の話ですが、摂取し続けると、肝臓や腎臓への致命的な影響が出ます。特に乳幼児には発達障害や知能障害等深刻な被害が避けられません。恐ろしいのは地溝油の多くに含まれるカビ毒“アフラトキシン”。これは猛毒のヒ素の100倍もの毒性があり、小さな子供なら瞬殺もありえます。しかし残念ですが見た目や臭いだけでは地溝油とホンモノの食用油を見分けることは不可能なんです…」前出程氏
死に直結する殺人油…。にもかかわらず、専門家でも試薬を使うしか判別方法が無い。そんな偽札以上のごまかしやすさと、簡単に儲けを得られる手軽さが地溝油蔓延に拍車をかけているとは、人命軽視も甚だしい…。
しかし飽くなき利益追求に挑む中国地溝油業者は、今年に入って更に生産効率の良い“新型地溝油”を開発したのだという。
「病死した家畜類だけを飼育業者から産地直送し、それにドブの発酵した油をタップリとかける。すると、今までの半分の時間で肉のロウ化が進み、取れる油の料も3割近く増えたのです。これらは工場廃液を使わない分安全で、しかも原料が安い。嬉しいことに、鉱物製油を使用しませんので成分検査でも地溝油と判別されないのです。まさに業者たちにとって夢の新製品ですね」前出程氏
夢の新製品!?毒のかたまりなのに検査でも判別不能…、これは夢ではなく悪夢だ!
もはや中国の日常生活では地溝油の危険から逃げることは不可能…。そんな危機的状況にも、中国版ツィッター「微博」の地溝油板の炎上ぶりは、なぜか緊迫感を欠いている。
「どこに行って、何を食べても安心できないなら、何を食べても一緒だ!」
「果物には農薬、野菜には地溝油、この国の食品終わた(笑)」
「対策は簡単だ。ドブの水を直接売れば良い!」
「地溝油消費量がインドを越えて世界一になった!ギネス記録を申請しよう!」、
「新型地溝油、今年の流行語大賞だ!」
絶対に地溝油の呪縛から逃げられないと覚悟すると、もはや笑い飛ばすしかないのかも…。
ところが、この脅威的な事件の影響は中国国内にとどまらないのだという。
「今後は日本にも上陸していく、いや…もう上陸しているかも知れません。今回摘発された工房からは、食用油以外に、レトルト食品や火鍋用の調味料スープとしてビニールの小袋入り加工済みのものも大量に発見された。製品の大半は市場に出回っているらしく、一部は日本や韓国に輸出されている可能性もあると言われています」前出程氏
何とその恐怖の地溝油が日本にも上陸すると!でも、日本のキビシい食品検査を、そんな毒油が通過できるとは思えないが…?
「甘いですねぇ(苦笑)。実は中国国内では、地溝油が最も恐ろしいのは油そのものより、加工された調味料となった状態のものと言われています。インスタントラーメンにフライ菓子。誰もが知らない間に毒油を摂取しているとなれば恐れられるのも当然でしょう」前出程氏
ステルス地溝油!知らない間に国境を超えた日本人も食べてしまうおそれが在ると!
「中国で一番深刻に論じられているのが原価の安いインスタントラーメンです。しかも危険なのは検査の目が入りやすいフライ麺等ではなく、ビニールの小袋詰めにされた調味スープです。味の決め手となる調味スープはレシピの秘密もあって、大手メーカーでも内容物を詳細に示さないのが通例。ステルス地溝油の温床といわれています」前出程氏
確かに飲料大手のコカ・コーラなども、味の秘密を守る為に、内容物は詳細に公開していない。「レシピを守るため」という口実で、調味料の配合や内容物は秘匿が許される。それを悪用するということか。そうなると防ぐのはかなり困難だ。
中国公安当局は地溝油製造に関わった者には最高死刑として事体の沈静化を計ろうとしているようだが、それでも事体は沈静化の兆しを見せないという
「正直無理でしょう(苦笑)。これほど簡単に儲かる仕事は在りませんからね。ドブや下水管をスコップで一掻きするだけで、誰でも簡単に1キロほどの油が取れます。それを買い取り業者に持って行くだけで5元(約65円)程で売れるんです。アルミ缶や紙クズを集めるより100倍も効率がいい。大人から子供まで競って参入するのも当たり前でしょう。いくら厳罰化されても、明日の死刑より今日の金でしょう(苦笑)。捕まらなければ無罪と同じですからね」前出程氏
死刑でも抑止力無しとなると、もはや打つ手無し…。現状では出所不明の中国製食用油や激安食品には手を出さないという方法しか自衛方法はなさそう。前出の何東平教授の「10回に1回の外食で普通に口にしているハズ」という見解がため息をさそう。トホホッ…。