夜を徹して帰省チケットを求めて並ぶ人々。しかし、ネット購入者が優先されいきなり売切れ!となることも珍しくないという。
UPDATE 2012/01/25
中国・上海
中国の今年の正月は1月23日。その前後40日間にわたり、帰省ラッシュ、Uターンラッシュの大民族移動が繰り広げられている。その移動総人数は全国民の倍以上30億人を越えるというから大変だ。この巨大な民族大移動を支える交通の特別体制は「春運」と呼ばれている。しかしこの春運に巨大な格差が発生し大混乱が巻き起こっている。
中国では昨年6月から、「春運」期間の悪質なダフ屋の切符転売を根絶するために、鉄道切符の購入には、身分証明書の提示が求めるようになった。更に、今年の「春運」期間から、駅舎に入る前にも、まるで空港のイミグレーションのように身分照会所を作り、駅に入るすべての人に、切符と身分証明書両方の提示が求められるようになった。確かに、これでダフ屋が激減するのは確実だ。
急激に整備が進みつつ在るが、まだまだ輸送力不足の中国鉄道にとって、まさに画期的な政策。この駅規制は、実施される前から多くの国民から期待を寄せられていた。
ところが、この政策により、逆に帰省不能という窮地に陥られた人たちがいる。それは、中国経済の高速発展を支えてきた底辺労働者、出稼ぎ農民「農民工」たちだ。
その最大の原因は、中国鉄道部(日本の旧運輸省にあたる)がこの切符購入での「実名制」を導入したと同時に、混雑緩和の為に、乗車券のオンライン販売ウェブサイトも開設したことが大きい。
巨大なネット人口を持つ中国。中間層以上の利用客の便利さは向上したが、高等教育を受けていないほとんどの農民工にとって、インターネットは全く無縁な世界。いきなり過激なネットでのチケット獲得レースに参加するなんて無理な話。結局今まで通りに販売窓口に徹夜で並ぶしかなかった。ところが、やっと順番が回って来たと思ったら、チケットはオンライン販売ですでに売り切れという悲劇が多発。各地の駅で、怒りが爆発した農民工と駅員による大乱闘が発生することとなった。
騒動が拡大したもう1つの重要な原因は、中国に1億人以上いるといわれる無戸籍人「黒孩子」の存在だ。彼らは元々出生登録されていないため、当然身分証明書など所持していない。完全に鉄道から締め出されることになったのだ。そんな黒孩子たちは、何日間もバスを乗り継いで故郷へ帰るか、故郷で正月を迎える夢をあきらめるしかない。
しかも、そんな春運移動の「負け組」に、更に絶望的な追い打ちをかけたのは宿泊問題。春節期間中、ほとんどの会社や工場が休みに入るため、会社の寮に泊まることは許されないのが通例。ところが、逆に各地のホテルや宿発施設の価格は高騰。一泊の宿泊料が、一般労働者一ヶ月分の収入を上回るというこの特別時期に、彼らが宿を得ることは不可能。残された道は、凍てつく駅前の路上でホームレス生活を送るしかないことになる。
「春運」期間に入ってからの一週間で、中国各地で発生している駅前暴動は拡大の一途。しかも、これから春節明けを迎え移動の第二ピークがやってくる。混乱がさらに拡大することが懸念されている。
さてこれから、帰省もできず各地の凍てつく駅前に取り残された3000万人以上もの黒孩子や農民工と、暖かい故郷で正月を迎えた人々が数億人の人々が駅で鉢合わせすることとなる。春運勝ち組の幸せそうな顔を見せつけられる負け組の心中は察してあまり在る。まさに一触即発…。この殺気立った嵐が通り過ぎるまで、中国各地の駅には、とても近寄れそうにない。
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