中国では子供が親の老後の生活の面倒を見るのは当たり前。一族の存亡がかかった一人っ子の受験は、子供達に究極のプレッシャーを与えている。
UPDATE 2011/06/16
中国・湖南省
一人っ子政策により、たった一人の我が子に一族の将来の全てをかけるしかない中国。そのため毎年、中国各地で壮絶な受験戦争が巻き起こっている。そしてその受験戦争で、文字通り戦死する子供達も多数いるのが現実のようだ。
その受験戦争がピークを迎えるのが6月7日と8日。この日は、中国の大学受験生にとって人生の分かれ道とも言える運命的な2日間であるだけでなく、受験生を抱える家族とその一族の未来の運命を決める特別な日となっている。その日は、中国大学入試「中国統一高考」(以下、「高考」)が行われる日だからだ。
この「高考」をきっかけに、一躍エリート街道を猛進する学生がいるかと思えば、逆に人生のどん底につき落とされる者も少なくない。受験生の中には、試験のプレッシャーに耐えられず、自殺に走ってしまうケースも毎年多発している。しかし、悲劇の発生は受験生本人の精神的な弱さだけではないようだ。
中国各メディアによると、今年の6月7日午前9時頃、湖南(こなん)省にある隆回(ロンホイ)市で、当市第二中学校(=日本の高校)の大学受験生呂姓さんが、試験開始時刻より15分間遅れたため入場を断られたという理由で、6階建ての宿舎の屋上から投身自殺を図っている。
事件発生直後、中国版ツィッター「微博(ウェイボー)」で、自殺した呂くんの親友であるペンネーム断魂学子氏が、「自殺の真相を追求して、親友の仇討ちをする!」と、親友の自殺した原因を赤裸々に書き込んだ。文中、断魂氏は、「呂くんは普段から勤勉な好学生だ。そして、この日のために人生のすべてをかけて、一生懸命努力してきた。しかし、本来規定に無いハズの15分間の遅刻を理由として、小さな権力を誇示したがる保安係によって入場を阻まれてしまったのだ。彼にとって、高校三年間の努力が水の泡になり、将来が見えなくなって死んでしまったんた。残酷な保安係、無情な社会、歪んでいる中国の教育現状が呂を死まで追い込んだ真犯人だ。この仇は必ず討ってやる!」と怒りの声を爆発させた。
この事件はネット上の騒動だけで終わらなかった。翌日(高考の二日目)、自殺した呂君の両親が、抗議のため彼の死体を乗せた車で試験会場の玄関を塞ぐという異常事態まで発展したのだ。幸い、学校と市の教育関係者の説得で、どうにか両親が一旦引き下がったため、500名近くの生徒が受験できないという最悪の事体だけは、なんとか免れたのだった。
この種の事件は呂君の一件にだけではない。今年の高考だけでも、他にも多数悲惨な自殺事件が発生している。同7日午前7時頃、中国中部の湖北(こうほく)省にある広水(グァンショイ)市で、一人の男子浪人生が、12階建ての病院の屋上から投身自殺。中国東部の江蘇(こうそ)省の鎮江(ちんこう)市でも7日、試験が始まる4時間前に、21歳の受験生が、コンピューターのラインで首を吊って死んでいるのが見つかっている。そこには、子供の将来の出世という約束手形を我が一族に!という周囲の大人達の隠亡や野望が見え隠れしている。
中国の教育問題に詳しい中国人ジャーナリスト戴世煜氏によると、「中国の『高考』は、日本の大学入試センター試験に相当しますが、日本の大学の様に個別の2次試験はありません。残酷な一発勝負なんです。受験生は受験前に志望大学の一覧を提出し(一部地域では試験直後に提出する)、その中から、点数によって合格校が決まる仕組みになっています。しかし、各大学には受験生の地域ごとの定員があり、合格点に達していても志望者の多い地域では不合格になってしまうことも多いんです」と、中国の「高考」の激烈さと問題点を指摘する。
「私も中国で大学受験を経験しました。朝7時から午後17時まではみっちりの授業。その後、夜9時まで学校で自習を強いられました。土日も補習や自習の勉強三昧。特に、高校三年生になると、家に帰るのは寝る時だけ。家族や友達に触れ合う時間はまったくなし。肉体も精神も、受験のプレッシャーでボロボロでした」と自身の体験を語っている。
現在中国の大学受験者数は、年々減少の傾向を示しているが、それでも、今年も933万人が受験しているという。その内、将来のエリートコースが約束される北京大学や清華大学のような一流大学に合格できるのは、わずか1%にも満たないぐらいだという。大学卒業者が激増し、一流大学卒でないと就職が難しいといわれる現在の中国では、今後も限られた席の奪い合いによる犠牲者、受験自殺問題が深刻になる一方と予測されている。
中国では先日、超高額な超ハイテク・カンニンググッズが飛ぶ様に売れていることが話題になった。庶民の数年分にも匹敵する価格のカンニンググッズが売れることは、にわかに信じ難かったが、この苛烈な受験戦争の現状を知れば納得してしまうかもしれない。
日本僑報社
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